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データから実質的な影響へ:ネットゼロ達成に向けた移行計画の策定に取り組む時期

トーマス・ツンビュール アソシエイトディレクター、アドバイザリー、LRQA View profile

COP29の開催にあたり、各国政府、産業界、地域社会全体に明確な呼びかけが響き渡ります。私たちは、利用可能なデータを活用し、有意義な行動へと転換し、ネットゼロを達成しなければなりません。

企業活動の観点では、多くの組織が温室効果ガスの排出削減に取り組む一方で、真の課題は、COP26で発表された「移行計画タスクフォース(TPT)」の3つの指針原則である「野心」「行動」「説明責任」を中心とした移行計画の策定にあります。公約を越えた取り組みには、データ、政策の整合性、技術革新に対する体系的なアプローチが必要です。その解決策は、企業がデータを活用して連携を図り、より持続可能な未来に向けて有意義な進歩を遂げるための仕組みを構築することにあります。

データに関する現状

現時点では、標準化された包括的なデータ収集方法が確立されていないため、ネットゼロの取り組みにおける透明性の達成には依然として大きな障壁となっています。これは特に、スコープ3の排出量に関して問題となっており、CDPによると、企業全体の温室効果ガス排出量の最大75%を占める可能性があると報告されています。小規模な組織では、バリューチェーンから正確な温室効果ガス排出量のデータを取得するためのコストや複雑性が高いため、一次データではなく推定値に頼る傾向があります。

実際の排出量を把握するためには、企業はサプライヤーと連携し、一次データの提供を依頼するなどして、データ収集の方法を改善する必要があります。企業は、LRQAのERSA評価プログラムのような責任ある調達評価を実施することで、サプライヤーの実績に関する包括的かつ総合的な概要を把握することができます。このデータは、LRQAのサプライチェーンソフトウェアであるEiQなどのリアルタイムの危機管理ツールに組み込むことができます。EiQは、サプライチェーン監査、環境データ、CO2排出量、公開情報などの膨大の情報を集約し、実行可能な洞察を提供します。このような取り組みによりデータの可用性は向上しますが、さらに改善の余地があります。

移行計画:データ収集から行動へ

行動と説明責任のためには、特にデータが不可欠ですが、企業が目標を達成するには、包括的な移行計画とデータを組み合わせる必要があります。データは、高い目標であるネットゼロと、信頼性の高い実施に必要なステップのつなぎの役割を果たさなければなりません。

移行計画は長期的な戦略ですが、気候変動対策を日々の業務やビジネスプロセス、意思決定に統合する高度な計画を策定することも可能です。移行計画は長期的な戦略ですが、気候変動対策を日々の業務やビジネスプロセス、意思決定に統合する高度な計画を策定することも可能です。効果的な移行は、業務、製品、政策における社内改革だけでなく、バリューチェーンの取引先、同業他社、政府機関、地域社会、市民社会との協調的な対策にも焦点を当て、具体的な短期行動計画を策定します。

また、バランスの取れた移行計画は、「公正な移行」のアプローチも取り入れ、従業員、サプライチェーンの取引先、顧客、地域社会をはじめ、より広範な経済や自然環境など、さまざまな利害関係者への影響を慎重に考慮します。これにより、ネットゼロへの取り組みが公平かつ包括的なものとなり、人々や地球環境に恩恵をもたらすことが保証されます。

さらに、信頼性の高い移行計画は、明確な指標、目標、進捗状況を監視・測定するためのガバナンスの枠組みを備え、説明責任を確保できるように構成されています。ネットゼロ経済には柔軟性が必要であることを踏まえ、移行計画は最新の動向に適応し、効果を維持するために時間をかけて改善していく必要があります。このような動向の代表的な事例としては、規制、法律、政策の進化が挙げられます。

政策変更や奨励策に対する移行計画の適応方法

企業は、政策変更や奨励策を移行戦略に組み込む必要があります。カーボン・プライシングの仕組み、例えば欧州連合の排出量取引制度(EU ETS)炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、排出削減を促す金銭的義務を課す例に過ぎません。

奨励策もまた重要な役割を果たします。例えば、米国のインフレ抑制法(IRA)欧州グリーンディールでは、クリーンエネルギー技術への投資に対して補助金や税額控除が提供されており、企業が再生可能エネルギーの導入や温室効果ガス排出量の削減に際して直面する資金面のハードルを乗り越えることに役立っています。

リーダーシップの実践:グローバル地域と産業分野から得られる教訓

一部の地域やセクターでは、移行計画への取り組みが際立っています。例えば、日本では、確立された規制枠組みとサステナビリティへの企業の取り組みが活発であることから、気候変動移行計画の開示に関する高い基準が設定されています。また、ヨーロッパ、韓国、英国でも著しい進展がみられます。これらの地域では、上場企業に対して気候変動に関する開示が義務付けられることが拡大してきており、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)のような枠組みが、透明性と行動を促す移行計画を推進しています。

産業分野別にみると、主導的な役割を担っているのは電力、金融、インフラの各産業です。電力会社は、再生可能エネルギー目標と長期移行計画を統合し、化石燃料からの段階的な移行を促進しています。金融サービス企業は、気候リスクの開示を拡大し、自社のポートフォリオと融資慣行をネットゼロ目標と整合させる傾向が強まっており、その多くは英国の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の開示ガイドラインのような枠組みを通じて行われています。Science-Based Targets initiative (SBTi)のような取り組みによる業界固有のガイドラインは、これらの業界をさらに後押しし、信頼性が高く測定可能なCO2排出量目標を達成するための実行可能な指針を提供しています。これらの業界のリーダーは、他の業界にとっても貴重な洞察を提供しており、クロスオーバーやコラボレーションの機会も頻繁にあります。

コラボレーションとイノベーションの融合

移行計画は、今後も政府、金融機関、企業の連携に依存することになります。カーボン・プライシングや気候変動に関する情報開示の義務化などの政府による規制枠組みは、移行計画に組み込まれる必要があります。一方、金融機関は、資金を調達し、グリーンプロジェクトに資本を投入する上で重要な役割を果たします。より一貫性のあるデータ基準、温室効果ガス排出量の報告、業界や地域間の相対比較の確保が実現すれば、グローバル企業にとっても、より緊密な連携が利益をもたらす可能性があります。

今後は、移行計画においても、効率性の向上、CO2排出量の削減、説明責任の改善を目的とした新しいテクノロジーを取り入れる必要があります。一例として、デジタルツインテクノロジー(IoTなどのテクノロジーを活用して現実世界の環境や物体を仮想空間上に再現する技術)は、企業が潜在的な業務変更の影響を予測し、排出量を削減するデータに基づく意思決定を可能にします。同様に、エネルギーマネジメントにおけるAI主導の分析は、消費を最適化することができます。これらは、CO2排出量の削減に役立つだけでなく、効果的な移行計画の重要な基盤となる強力なツールです。

データから実質的な影響へ

ネットゼロの達成は、単なるデータ収集にとどまらず、実行可能な変革を必要とします。移行計画は目標達成への指針であり、気候変動に関する公約を明確な目標とガバナンス体制を備えた具体的な行動に変える役割を果たします。この計画は、企業が規制に遵守し、奨励策を最大限に活用し、継続的な改善を確保する上で指針となります。また、人々、コミュニティ、自然環境へのより広範な影響を明らかにし、公正な移行を支援します。COP29が気候変動対策の緊急性を強調する中、企業には移行計画を採用し、公約を具体的な成果に変えるという絶好の機会が訪れています。これにより、業界全体、さらには業界を超えて、有意義な変化が促進されることが期待されます。

 

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